2020年5月15日東証一部上場のレナウンが民事再生法を適用し、上場廃止の検討段階に入ったと発表されました。
現在、レナウンは整理銘柄となり2020年6月16日に上場廃止になる予定です。
民事再生って何?「経営破綻」「倒産」「破産」「民事再生」「会社更生」
そもそも民事再生って何?という方のために、詳しく解説していきます。
よく似た言葉に「倒産」「破産」「民事再生」「会社更生」
どれもよくない言葉のような気がしますが、どのような使い分けをしているのでしょうか。
まずはじめに簡単なイメージを記載します。
倒産とは?
倒産という言葉は非常によく耳にはしますが、正しい法律用語ではありません。
非常に定義が曖昧で説明するのが難しいですが、簡単に言うと
「債務の支払いができなくなり、事業の継続が難しく経営が立ち行かなること」を言います。
実はこの「倒産」という言葉、法律用語ではありません。東京商工リサーチが1950年頃から企業の倒産動向の集計を行い、そのデータが国会で使いだしたことにより、一般的な言葉になりました。
同じような言葉に「経営破綻」という言葉があります。
この経営破綻は、倒産に比べ若干広義な意味を持ち、上記の倒産、あるいは、それに近しい状態のことを言います。
つまり倒産しそうな会社も含まれるということです。
また、TVニュースでは倒産という直接的な表現を使うことは、好まれず経営破綻を使うケースが多くあります。
倒産した際の、手続きとして「破産」「民事再生」「会社更生」という大きく3つの手続きがあります。
破産とは?会社が消滅
破産の特徴
裁判所から破産管財人が選任され会社の財産を債権者に平等に分配することを言います。
この破産の特徴は、会社が存続しないということです。
ポイント
1.破産手続きが完了すると会社は存続しない。
2.会社の財産は、破産管財人が管理し、経営者は一切関与できない。
3.会社の財産は、債権者へ平等へ分配される。ただし、担保権の実行は可能。
破産となると会社のすべての財産を破産管財人に管理され、不動産や土地その他固定資産は競売にかけられすべて現金化されます。
そしてそれらすべての財産を債権者の割合によって平等に分配されます。
経営者が関与できなくなるは、資産を隠したり、特定の債権者への弁済を優先したりと、その他債権者への不平等な対応をさせないためです。
どんな時に破産になるの?
どんな時に破産になるの?
1.債権者の中に民事再生等の話し合い等に応じず、強制執行をするものが場合
2.債権者により破産が申し立てられた場合
つまりは、債権者が民事再生等で債権期日の延長等に協力的でなかった場合に破産という形になります。
民事再生とは?
民事再生の特徴は?
会社自身が再生計画を立て(経営状態を回復させ、債務の弁済計画をたてる)、事業を再建させることを言います。
破産との違いは、会社が存続するということです。
今回のレナウンはこの民事再生法を適用し、会社の再建を目指しています。
ポイント
1.民事再生後も会社は存続する。
2.経営者のもと、再生計画を立てる。
3.債務の一部免除等債権者の協力が必要。
4.債権者の担保権は実行可能。
5.租税は優先的に支払わなければならない。
民事再生の3つの方法
民事再生の方法には、大きく分けて下記の3つがります。
(1).自力再建型
本業から生み出される収益から、債務の弁済を行っていくもの。
自力で会社を再建させる方法。
(2).スポンサー型
スポンサーを見つけ、資金の援助を受け、会社を再建させる方法。
(3).再生型
営業譲渡により、営業の全部あるいは一部を別会社(スポンサー会社)に移管する方法。
営業譲渡によって得た代金で、債務の弁済をしていきます。
会社更生とは?
民事再生と並列に並ぶ言葉として会社更生という言葉があります。
会社が存続するという点では、民事再生と同じですが、その対象、経営陣の扱い、租税の取り扱い等に違いがあります。
ポイント
1.会社更生後も会社は存続する。
2.経営陣は退き、更生管財人が、再生計画を立てる。
3.対象は株式会社、債権者に加え、株主の協力が必要。
4.債権者の担保権は実行不可能となる。
5.租税は返済してはならない。
レナウンはなぜ倒産したのか?
レナウンってどんな会社?
商号・英文名 | 株式会社レナウン・RENOWN INCORPORETED |
創業 | 1902年 |
設立 | 2004年3月 |
資本金 | 18,471百万円 |
創業1902年で、創業から100年以上の超老舗企業です。
特にバブル期の1980年代にイケイケどんどんで事業を拡大していき、当時は世界でも有数のアパレル企業でした。
DURBAN、AQUASQUTUMなど非常に有名なブランドの取り扱いもしています。
レナウンはコロナ倒産なのか?
「ダーバン」や「アクアスキュータム」などのブランドで知られる「レナウン」は、衣料品の販売が低迷していることなどから資金繰りに行き詰まり、15日、民事再生法の適用を東京地方裁判所に申請しました。
会社によりますと、業績不振が続いていた中で新型コロナウイルスの感染拡大でほぼすべての店舗の休業を余儀なくされ、資金繰りに行き詰まったということです。
負債総額はおよそ138億円余りだということです。引用:NHK Web News
各種ニュースでは、元々業績がよくない中、新型コロナウィルスの感染拡大により店舗休業となり、現金収入がなくなり、資金繰りがさらに悪くなったという報道がなされています。確かに、このコロナ禍において、販売状況がさらに低迷していたということは、想像がつきます。
貸倒引当金58億円の計上?
参照・参考:株式会社レナウン 2019年 第16期 有価証券報告書
2019年12月31日の貸借対照表を見てください。5,840百万円の貸倒引当金が計上されています。
貸倒引当金とは?
金銭債権の貸倒見積高を計上することにより生じる引当金である。貸方に計上される勘定であるが、貸借対照表上は評価勘定として資産から控除される形で表示される。つまり勘定科目では資産のマイナスを意味する。これは適正な資産評価および損益計算のために計上される抽象的な概念であり、リスクを定量的に表現したものにすぎない。そのため、貸倒引当金に相当する資金(現金)が現実に確保されるわけではない。
引用:Wikipedia
つまり、売掛金等の債権の内、貸倒れる(弁済されない)可能性のあるものを言います。
この貸倒引当金はどこ向けの債権なのでしょうか?
レナウンは、2010年に山東如意科技集団(中国)が筆頭株主となり、2013年には、その保有比率が50%以上となり如意グループの一員となります。
2019年12月末現在、レナウンには山東如意科技集団(中国)から5名の役員が派遣されています(レナウンの役員は計9名)。
今回発生した貸倒引当金58億円の内、53億円はこの如意グループの香港の子会社である恒成国際発展有限公司(香港)向けの売掛金の回収懸念によるものになります。
同じグループ会社間で、回収懸念が起こるというのも、非常に珍しいことであるのに加え、親会社である山東如意科技集団(中国)が代理弁済しないのかという疑問も出てきます。しかも、契約上、親会社である山東如意科技集団(中国)はその債務に対する連帯責任者になっていたとのこと。
2019年12月時点では、恒成国際発展有限公司(香港)の財務情報を収集し、支払いの督促を続けるとともに、親会社の山東如意科技集団(中国)にも、連帯責任を果たすよう催促をしていたようです。
役員が山東如意科技集団(中国)から5名でている中で、親会社との関係性が悪くなっていたということが考えられます。
でも倒産するほどではないのではないか?
一つ疑問が残ります。
通常、企業の資金繰りが悪化して、債務の弁済が期日通りできないとなると、金融機関からの融資やリスケを申請したり、債権者に対して支払い期日の猶予をお願いしたりして、企業を継続させようとあらゆる手を使うのが普通です。
確かに、業績の低迷や、貸倒引当金の計上、コロナウィルスの感染拡大等マイナスの要素は非常に多くあったのは事実です。
ただ、2019年12月の決算書を見ると通常であればすぐに倒産するほどのことではない(資金繰りを回せなくなるほどではない)と考えられます。
2019年12月期 決算内容(概略)
貸借対照表(単位:億円)
流動資産 | 237 | 流動負債 | 108 |
内、現預金 | 54 | 固定負債 | 62 |
固定資産 | 86 | 純資産 | 153 |
計 | 323 | 計 | 323 |
2019年12月末時点では、自己資本比率は47%と非常に良好な水準と言えます。
現預金は、前年が91億円でしたので、前年比-47億円も減少しています。
ただ、流動資産は237億円、流動負債は108億円とすぐに返さないといけない負債よりも、すぐに現金となる資産の方が2倍以上あり、問題はありません。
損益計算書(単位:億円)
2019年2月期 | 2019年12月期(10ヶ月) | |
売上 | 636 | 503 |
売上総利益 | 290 | 235 |
営業利益 | ▲26 | ▲80 |
経常利益 | ▲20 | ▲80 |
当期純利益 | ▲30 | ▲67 |
2019年12月期は決算期変更に伴い、10ヶ月の変則決算となっております。
前年は、12ヶ月分なので、売上・売上総利益でみると前年と大過ない水準です。
ただ、先ほどの貸倒引当金の計上もあり、営業利益は大幅な赤字となっています。
よって、当期純利益も▲67億円の赤字となっております。
確かに業績は非常に悪いというのは、この損益計算書から見てとれます。
しかし、自己資本が323億円あることを考えると、すぐに倒産するという状態にはありません。
コロナの影響がどれほどあったのか?
2019年12月の決算書上では、確かに業績の低迷はあるものの、倒産するほどではないという印象を受けます。
では、2020年1月以降コロナウィルス感染拡大の影響がどれほどあったのでしょうか。
2020年1月~3月で売上は前年の25%減少、4月は80%の減少と言われています。
レナウンは百貨店等に店舗を構えて、BtoCの商売をしておりそのほとんどが現金商売です。
月商が約50億円とすると、1月、2月、3月でそれぞれ12億円、4月は40億円、合計76億円減収、つまり通常より収入(現金の入り)が減っていたのではないかと仮定できます。店舗の閉鎖や広告費の削減等の支出を減らす努力もしていたとは思いますが、売上の減少によりキャッシュフローは非常に悪化していったと思われます。2019年12月の現預金が54億円ですので、76億円の収入が減ると何もしなければ、資金は枯渇し、債務不履行に陥ります。
ここに来て確かに倒産する可能性は非常に高いことは分かります。
業績が悪化しておる、親会社である山東如意も業績が悪化いること、親会社との関係が悪化していること等に加え、回のコロナウィルス感染拡大の影響が、決定打になったような印象を受けます。
今後、親会社である山東如意がどのような動きをしてくるのかが非常に注目されるポイントではないでしょうか。
東証はレナウン上場廃止を決定
東京地方裁判所がレナウンの民事再生法適用の申請を受理したことを受け、東証はレナウンの上場廃止を決定しました。
2020年6月16日が上場廃止日となり、株式の取引ができるのは、上場廃止日の前日の2020年6月15日までとなり、整理銘柄という位置づけになります。
この間株式の取引はできますが、上場廃止によってその価値は限りなくゼロになります。
ただ、この整理銘柄の期間には、「マネーゲーム」と言って投資家からの短期資金の流入によって価格が乱高下することがよく起きます。
上場廃止が決まると通常株価はものすごいいい勢いで下落し、株の単価が低くなります。
そこで少しでも値幅を取ることができれば、少ない資金で大きな利益を生むことができるため、「マネーゲーム」になりやすいのです。
株取引の初心者には、おすすめできませんが、宝くじ感覚で短期の投資をするのも、おもしろいかもしれません。